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これは暫定的なページです。 将来、内容が変更される可能性があります。

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(* Category: Novel *)
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Abstract

 京都λ抽象学院の推薦入試を受けたわたし。

 面接ではうまくしゃべれなかった。

 だから落ちるかもしれないなんて心配しながら3ヶ月。合格発表。

 いろいろ心配だったけど、けっきょく、わたしは問題なく合格しました。

 それからすべてが滞りなく進み、2045年4月5日水曜日。

 わたしの住んでいる兵庫県芦屋市から 京都λ抽象学院のある京都市への44分。

 わたし、古園井真鳥は、京都λ抽象学院の入学式と入寮式に行くところです。

Introduction

 今年の1月——つまりいまから3ヶ月前——に、わたしは京都λ抽象学院の 推薦入試を受けました。

 そこで出会った2人の先生と1人の女の子。

 後藤写理先生——おっとりとしたHaskellの先生。だけどルールには厳格。

 藤阪対先生——キリッとしたStandard ML の先生。だけど軟派な一面も。

 それから赤毛で緑色の目をした北欧系の女の子。 彼女は日本人ではないと思う。

 わたしがStandard MLを好きだと言ったから、どうやら、 藤阪先生はわたしを気に入ってくれたみたいです。

 あんまり良いこととは思えないけどひいきしてくれると言っていました。

 だから、わたしも彼女には好印象です。

 赤毛の女の子は、名前も知らないけど、なんだか気になる子。

 わたしは3ヶ月のあいだ、彼女たちともう一度会いたいと思っていました。

 そして、ついに彼女たちと再会できるかもしれない日がやってきました。

 2045年4月5日水曜日。

 今日は入学式と入寮式です。

 合格したことも嬉しいけど、それ以上に、またあの人たちに会えることが 楽しみ。

 あの人たちは、わたしと同じ趣味を持っているだろうから。

 面接のときは時間がなかったけど、今度はなにか理由をつけて話す 時間をとりたいな。

 今日は彼女たちを探して、話かけてみようと心に誓う。

 彼女たちは、わたしの知らない世界を見せてくれるだろうから。

 わたしと同じことを考えているとしたら、共感できて嬉しい。

 わたしと違うことを考えているとしたら、知らないことを知れて嬉しい。

 彼女たちと話せば、わたしは、そういう刺激を感じれると思う。

 それがとっても楽しみ。

 それこそが、わたしが京都λ抽象学院を目指したわけなのですから。

Methods

 2045年4月5日水曜日。春です。

 4月。ぽかぽかしてくる季節。

 暑過ぎもせず寒過ぎもせず、まるで常におふとんに包まれているかのような 温度。こんな季節に電車で揺られているとついうとうとしてしまう。

 京都駅で降りてバス停へ。

 と、そのとき、わたしはバス停に見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 フワッとした真っ赤なボブ・ヘア。

 それに、わたしと同じブレザーの制服を着ている。

 そんな、見たことがあるはずの女の子が、バス停の列に並んでいる。

 こんなに特徴のかぶった別人がいるだろうか。

 いいや、いない。

 つまり、まちがいない。彼女は、面接のときすれ違った女の子だ。

 いますぐ、彼女と話してみたい。

 そう思った。

 でも、いざ前にしてみると、話しかける勇気はなかなかでなかった。

 わたしはそうっとバス停に並ぶ。

 話しかけてみようかな、いやでも、変な奴って思われたら嫌だな……。

 けっきょく、わたしは話しかけられないまま並んでいる。

 そしてロータリーをぐるっとまわるようにしてバスが来る。

 並んでいた人たちがみんな乗り込んでゆく。

 わたしはバスに乗る。あの女の子はいちばん後ろの端の席に 座っていた。

 彼女は堂々と胸を張って、背筋をピンと伸ばして座っている。

 前のほうの席はほとんど埋まっている。

 さらに後ろから人が乗り込んできて、つかえている。

 わたしは流れに任せて後ろの席へ向かって歩くしかなかった。

 そして、これはほんとに偶然、運がよかったのか悪かったのか、 わたしはあの赤毛の女の子の隣りに座ることになってしまった。

 ほかの席がすべて埋まっていたから仕方ないよね。

 乗客が全員乗り、バスの扉が閉まると、バスは動き出す。

 ゆっくりと前進するとき、わたしは姿勢を崩して、女の子の肩に肩をぶつけて しまう。

 見ず知らずの人だったら、よくあること。

 でもなんだか気になっている人とそうなると、顔が真っ赤になってしまう。

 わたしは慌てて姿勢を正す。

 彼女の目を見れない。不自然なほどまっすぐ前を見て、固まる。

 女の子が怪訝な顔でこちらを見る。

 彼女はかちこちになっているわたしの頭からつま先まで舐めるように見ると、 批判的に言う。

「もっと堂々としていないと舐められるよ」

 わたしは呆気にとられる。

 最初の一言がそれ?

 彼女は批判的に続ける。

「カチコチじゃんか。しゃきっとする! 新入生でしょ? 今日は入学式なんだから、なおさら」

 わたしはとっさに答える。

「あっ、ありがとうございます」

 って、わたしたち、まだ自己紹介もしてないんだけど。

 いやそれよりも。彼女はわたしが新入生だってわかってるみたい。

 面接のとき会ったの、覚えててくれたのかな。

 彼女はそれだけ言うと、そっぽを向いてしまう。

 バスが揺れる音くらいしか聞こえなくなってしまった。

 わたしは、彼女と話してみたい。

 ただ、ちょっと勇気がでないだけ。

 でも、きっかけができたいまなら、話しかけられる気がする。

 わたしは勇気を出して言った。

「こっ、こんにちは、その……あなたも新入生ですよね? 京都λ抽象学院の」

 赤毛の女の子は髪をかきあげてから答える。

「うん、そうだよ」

「面接のとき会ったの覚えてます?」

「うん。わたし、人の顔を覚えるのはそれなりに得意なんだ。 これから5年間よろしくね」

 なぜだかちょっと嬉しい。わたしは自己紹介する。

「わたし、古園井真鳥と言います。あなたの、名前は?」

「緑川コーデリア。デリアって呼んでね」

 京都駅から京都市営バスで荒神口通りまで18分。

 そろそろ荒神口通りに着く。

 わたしはデリアにたずねる。

「その、学科はどちらですか?」

「情報工学科」

「ほんと! 一緒ですね」

 ちょっと、一緒の学科だといいな、なんて思っていた。

 わたしは続けて質問する。

「日本人……では、ないですよね。帰国子女ですか?」

「ううん。生まれも育ちも日本だよ。心と身体はアメリカ人だけどね」

「ハーフ?」

「うん。お父さんが日本人でお母さんが北欧系アメリカ人。 お母さん似ってよく言われるんだ」

 そしてバスが停車し、わたしとデリアは降りる。

 バスから降りるとき、デリアがわたしにたずねてくる。

「あなたのことも聞かせてよ。好きな言語とか、ある?」

「えっ、その……Standard ML」

「MLファミリーかぁ。どうしてその言語が好きになったの?」

「お母さんが好きで、教えてもらって、その」

「そうなんだ! わたしと一緒」

 わたしは思わず嬉しくなって聞き返してしまう。

「あなたも SML が?」

「ううん。そうじゃなくて、プログラミング言語を好きになった理由が。 わたしは Ada が好きなんだ。お母さんが Ada が好きで教わったの」

「なるほど……たしか、 Ada ってアメリカの国防総省が深く関わってる 言語だよね。アメリカ人ならたしかに Ada が好きになるかも」

「お母さんはたまらなく Ada が好きらしくて、 わたしのミドルネームも Ada って言うんだよ」

「じゃあ、本名は緑川・エイダ・コーデリアさん?」

「ううん。フルネームは緑川=パース・A・リエ=コーデリア。下の名前も上の名前も 和名と英名のどちらもあるんだ。でも長いから緑川コーデリアでいいよ」

 今日は入学式なので、みんな体育館に集まる。

 わたしとデリアはふたりで体育館の前へ。

 体育館の前にクラス分けが掲示されている。

 新入生がたくさん掲示の前に集って各々の名前を探している。

 同じクラスになるといいな……なんてちょっと思ったりして。

 人ごみで近くまで行かないと見えそうにない。

 仕方なく並ぶ。

 みんなが流れるように歩いて、わたしたちは掲示の前まで行く。

 そこでしばらく立ち止まり、表からわたしの名前を探す。

 同時に、デリアの名前も探す。

 情報工学科のクラスはε組とζ組の2つだけ。

 学科は同じだから、同じクラスになる確率は1/2。

 古園井真鳥、古園井真鳥……。

 あった!

 わたしは1年ζ組だった。

 デリアの名前は……。

 デリアもζ組!

 わたしは思わず叫ぶ。

「デリア! 同じクラスですよ!」

 デリアもちょっとにやにやして答える。

「ちょっと嬉しいかも」

 表に担任の先生の名前も書かれていた。

 担任の先生は藤阪先生——Standard MLの先生——ではなく後藤先生——Haskellの先生——だった。

 ちょっと残念。

 自分の名前を見つけたら、さっさとその場を離れないとみんなに迷惑だ。

 そこで離れようとしたとき、わたしは視界の端に信じられない人を 目にして立ち止まってしまった。

 真っ白なウサギのような人。

 髪も肌も真っ白で、まるでおとぎ話に登場する眠れるお姫様みたい。

 真っ白な長いストレートの髪。

 血の色が透けた真っ赤な目。

 こんなに混んでいるのに、堂々と黒い日傘をさしている。

 不思議なアルビノの女の子。

 わたしが惚けるように見つめていると、 デリアが批判的に言ってくる。

「ほかの人の邪魔だよ。さっさと行こう」

 それから、みんな教室に集まる。ζ組は1号館の2階。 ちょうど、わたしが面接を受けた教室。

 教室には、ζ組の生徒と、後藤先生がいた。

 時間が来れば新入生入場。

 ほどなくして、教室の扉を開けて入ってきた女の子。

 さっき見かけたアルビノの子だ。

 白鳥のように真っ白な長髪に、真っ赤な目。

 デリアよりももっと特徴的な容姿に釘付けになってしまう。

 どうやら彼女もζ組らしい。また今度、機会が あったら話かけてみよう、と思った。

 後藤先生が1年ζ組のみんなを集めて指導する。

「点呼します。呼ばれた順番に並んでください」

 それから後藤先生は生真面目に名前を呼ぶ。

 名字の五十音順。

 わたしは古園井。デリアは緑川。か行とま行だから当然わたしが 先に呼ばれる。

「次。古園井真鳥さん」

 わたしはそれを聞いてデリアに別れを告げる。

「じゃあね。また今度」

 それから、わたしたちは列になって体育館の前に戻る。

 α組やβ組、γ組やδ組、ε組はもう集まっていた。

 それから新入生入場の時間。

 機械工学科——α組、β組——電気工学科——γ組、δ組——情報工学科——ε組、ζ組——の 順で呼ばれる。

 緊張感が高まる。どきどきしてくる。

 ε組が入場している。

 次はわたしたちの番。だんだんこわくなってきた。 目をつむって深呼吸する。大丈夫よ、真鳥、問題ないわ。

 入学式はなんの予行演習もしない。

 うまくできるかどうか。

 できなかったらどうしよう……。

 ううん、そんなこと考えても仕方ないんだから。

 そしてζ組の入場。

 背筋をピンと伸ばして歩く。

 そして所定の位置にきちんと並ぶ。

 それから、担任の先生が新入生の名前を読み上げる。

 呼ばれた生徒が前へ出て夢や抱負などについて一言述べる。

 わたしの名前も呼ばれる。

「古園井真鳥」

 わたしは前へ出る。目をつむって歩く。危ないけど緊張で心臓が爆発して しまいそうで。

 大勢の新入生と在校生、そして、先生たちを前にして、わたしは立つ。

 ちょっと前のめりになって、マイクに口を近づけ、振り絞るように言う。

「すっ、 Standard ML が好きでこの学校に来ました。そっ、その、 なにを言っていいかよくわからないんですけど、よっ、よろしくお願いします……」

 わたしはきびすを返して席へ戻る。

 ちゃんとしゃべれただろうか。ちゃんと歩けているだろうか。 変じゃないだろうか。

 そんなことが気になって仕方ない。

 でもなんとか席へ戻り、ほっと胸を撫で降ろす。

 それからほどなくして、デリアの名前も。

「緑川=パース・エイダ・リエ=コーディア……」

 後藤先生、やたら長い名前だから、噛んじゃったみたい。

 後藤先生は咳払いをして続ける。

「失礼、改めまして、緑川=パース・エイダ・リエ=コーディ……コーデリア」

 後藤先生は心なしか顔を真っ赤にしているように見える。

 思わずくすっとする。

 抜けてるところもあるんだ。

 デリアは前へ出て叫ぶように言う。

「緑川コーデリアです。 戦闘機の制御ソフトウェアが書けない言語は非実用的です。 以上」

 そっか。 Ada って F-11 とか書くのに使われてるんだもんね。 面白い。なかなか尖った言い分だと思った。

 それからほどなくして別の子が呼ばれる。

「キャサリン・ウォーターリリィ」

 なんだか、春の暖かさもあって、うとうとしてしまう。

 でも、登壇した人物を見て、わたしの眠気は一気に冷めた。

 あのアルビノの女の子。

 何度見ても特徴的なせいでびっくりしてしまう。

 彼女は透き通った音色のような声で言う。

「 Cat Waterlily です。親の都合で Scotland からきました。日本語勉強中です。 卒業するまでに GHC を改造して新機能の追加や生成されるコードの改善 をできるようになりたいです」

 Haskell 。関数型言語のなかではもっとも流行っている言語。

 流行っているのには流行っているなりの理由があって、ほかの言語と もっとも異なる特徴は、いわゆるその純粋性。それは SML でずっと問題になっている 値制限を回避できる……らしい。

 でもただ Haskell を使うだけじゃなくてあの GHC を改造したいの? 正気?

 でも、ちょっと憧れるかも。

 面白い女の子だなぁ、と思った。

 それから校長先生の言葉。

 新入生の言葉。

 在校生が歓迎の言葉を述べる。

 それから在校生による校歌斉唱。

 校歌斉唱が終わり、担任の先生の紹介。

 機械工学科と電気工学科の先生の紹介もあった。 そのあとにε組の担任の藤阪先生とζ組の担任の後藤先生の紹介。

 それからやっと新入生退場。

 これから教室に戻る。

Results

 教室に戻るなり、わたしはデリアの机をたずねた。

「入学式、終わったね」

 デリアは綾取りをして遊んでいるところだった。彼女はつまらなさそうに答えた。

「うん。真鳥はちょっとしゃべるのがへたみたいだけど」

 ちょっと直球だなあ、と思ったけど。

 アメリカ人の血を引いているからかな?

「えへへ、それはまあ……」

 デリアは黙って赤い糸をたぐり、いろいろな形に変形する。

 わたしはつぶやくように言う。

「綾取りかあ。懐かしいなあ。小学生の頃友達とよくやった」

 デリアは答える。

「わたしはいまでもやってるよ。暇つぶしにちょうどいい」

「わたしは暇つぶしならインターネットでするなあ」

 デリアは三角形をつくりながら質問してくる。

「じゃあ、どうしていまはインターネットを閲覧していないの?」

 え。

 質問の意味を理解するのにちょっと時間がかかってしまった。

 つまりデリアはわたしと話すのが暇だってこと?

 わたしが戸惑っていると、デリアはひもを畳んでスカートの ポッケにしまいながら言う。

「冗談よ。驚かせちゃってごめんね」

「な、なんだあ。てっきり拒否されてるのかと」

「でも、わたしはインターネットで暇つぶしはしないな」

「どうして?」

「時間を吸い取られすぎるから。 暇つぶしにインターネットを使うのはアルミ缶を潰すのにロードローラーを 使うようなものよ——余計なものまで潰してしまうということ——小学生のとき悟ったの」

 なるほどたしかに。一理ある。

 わたしは話題を変えてたずねる。

「入学式、どうだった?」

 デリアは質問で返してくる。

「どうって、なにをたずねてるの?」

「楽しかったかとか、つまらなかったかとか」

 するとデリアはまた質問で返してくる。

「楽しかったと答えると思う?」

「それは、思わない、けど」

「必要だとは思えなかった。儀式的な手続きばかり」

「わたしも」

 でも。

 たしかに校歌斉唱とか、校長先生の言葉とか新入生の言葉とか、 あんまり興味を持てるものではなかったけど。

 興味を持ったこともあった。

 あのアルビノの子。

 真っ白な髪と肌に真っ赤な目。

 動物にたとえるなら、ウサギ、あるいは白鳥。

 季節にたとえるなら冬。

 物質にたとえるなら雪。

 それか中世期に彫られた彫刻のような。

 どう表現しても、どこまでも儚げで、果てしなく美しい。

 たぶん、今日いちばん目立っていたと思う。

 わたしはちらっと教室の隅を見る。

 廊下側のいちばん後ろの席。

 真っ白な肌の女の子が、そこにいる。

 同じ教室にいるのに、そこが同じ世界だとは思えない。

 まるで、そこだけが不思議の国になってしまったかのように見える。

 彼女の名前はキャット・ウォーターリリィ。

 名前すら異世界の人物に聞こえる。

 わたしはぼそっという。

「でも、面白い発見もあったよ」

 デリアは頬杖をついて聞き返してくる。

「その発見とは?」

「ウォーターリリィさん。雪みたいに真っ白」

「ああ、あのイギリス人」

「面識あるの?」

「ううん」

 どうでもいいけどスコットランドをイギリスというのは 政治的に正しいのだろうか。

 まあ、日本人(や、たぶんアメリカ人もそう思ってる)から すればイングランドもスコットランドもウェールズも 北アイルランドもイギリスという認識しかないし、 あんまり気にしないほうがいいと思う。

 わたしは手を合わせて続ける。

「わたし、容姿で人を判断するのはよくないとわたし自身思うけど、 でもやっぱり見た目は重要な要素のひとつだと思うのよね。 だからあんなにお姫様みたいな美人にはついつい見とれちゃうし 憧れちゃう」

「じゃあ、話かければいいのに」

「えっ?」

「見とれてるだけでいいの?」

「それは、その……でも、きっかけがないし」

「きっかけがあるとかないとか、そういうことで判断を先送りにするの 本当に日本人らしい」

「てゆーかデリアも日本人じゃん!」

「そうだけど心はアメリカ人なの」

「てゆうか身体もアメリカ人じゃん、日本人なのは戸籍だけ」

「そう。アメリカ人は必要なときにはきっかり判断する。迷いはしない」

「それっていわゆる “日本人的な理想のアメリカ人像” ってやつ?」

 デリアは真っ赤になって否定する。

「っさいな!」

「あはは」

 デリアはひもを指先でこねる。 そして手早く三角形をつくりはじめ、唇を尖らせる。

「だからわたしと話してなんかいないでさっさと、その、ウォーターリリィの ところへ行けばいいじゃない」

 その言葉で彼女がなにを考えているか理解できた気がした。

 つまり。

「もしかして、デリア、嫉妬してる?」

 デリアは顔を真っ赤にする。

「っさいな!」

Discussion

 ともあれこうして入学式は終わった。

 ここまででいちばん嬉しかったのは、デリアと出会えたことかな。

 もうちょっとプログラミング言語の話もしてみたかったけど、それは また今度ということで。

 それに後藤先生の意外な一面を見れたのも楽しかった。

 きっちりしてるように見えて、けっこうおっちょこちょいなのかな。

 デリアとは仲良くなれそうだった。

 ちょっと、友達ができなかったときのことを不安に思っていた。

 でも、入学式から友達ができたので、その心配はなさそう。

 今日はちょっと時間がなかったから。

 また今度ゆっくり話したいなと思いました。

Conclusion

 こうしてわたしは入学式を終えました。

 今日出会った人。

 デリア—— Ada が好きな赤毛の女の子。

 キャット・ウォーターリリィ—— Haskell が好きなアルビノの女の子。

 でも、これで終わりじゃない。

 このあとは入寮式。

 まだこのあと、入寮式と、クラス分けが待っています。

 入学式より、むしろ、こっちのほうが大事。

 これから1年間同じ寮で一緒に暮らす友達が決まるんだから。

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